松岡宮のブログ

詩でうた作り

なぜか志布志

(画像:JR九州のウェブサイトより)

 

南九州には、左側に「薩摩半島」、右側に「大隅半島」(+都井岬:といみさき)があり、その「大隅半島」と「都井岬」の間に「志布志湾(しぶしわん)」、宮崎県と鹿児島県の県境あたりに「志布志」というまちがある。

 

南九州の東側を走る日南線「宮崎」駅から南下すると、青島、飫肥(おび)、日南、油津(あぶらつ)、南郷、串間・・・宮崎県を南に下り、そして鹿児島県に入り、志布志で終着する。

電車の路線図でみると、鉄道の終着駅のようにみえる志布志駅

志布志駅の周囲には鉄道の駅がなく、JRの路線図でみると何もないようにみえる。

 

しかも、行ったときは、日南線の「志布志ー福島今町」が台風の影響で不通となっていた。なぜかわたしは志布志まで、バスに揺られて行ったのだ。ごくありふれた路線バスは古い感じのする内装だったが広々としており客は2名しかいなかった。

 

無口な運転士が存在を消すように前に進む。

その道は未来に向かってカーブをくねる、これから我々は山を越える、越えた先には何がある?わからない、2月上旬の南九州。

 

山深い車窓に顔をあずけて、2月の樹々よ、2月の森よ、その深い生命の群れよ、松岡をさらってゆけ・・・そんな、どこか運命に翻弄されつつの、謎めいた旅。

 

こんな山深いところには、どんな産業があるのだろうかと車窓をみたとき、太陽光パネルが空にむかって身を広げている、そんな風景を見つけた。

 

 

空を写す太陽光パネル青はまるで海。

九州の日差しは、やはりエネルギーを多く生み出すのだろうか?

山の深みのその奥の、こんな奥地にもどの森にも、人の足跡というのがあることに感銘をうける。わたしが乗っているバスが走っている、その道路も、誰かが開拓してきたもので、その労力たるや、ものすごいものだと思うのだが、そのことはしばしば忘れてしまう。

 

思い出そう、どんな場所にも歴史がある。誰もいない場所であっても、いつか誰かがここにいた。

 

それにしても、たったひとりで、なぜ志布志

口に出してみたくなる地名、しぶし。

 

ふと誰かに志布志にいることを伝えたいと思って、鹿児島に実家のあるAちゃんにメールを送った。Aちゃんは気さくに返信をくれて、しばらくメッセージのピンポンが続いた・・・が、乗り物に酔いやすいわたしは、すぐに胃の中の空気が泡立ち始めるのを感じた。アホだ・・・。

 

少し心もとない気持ちで辿り着く、初めての街、ここは志布志

 

解放感のある、明るい街。これが第一印象であった。

 

駅前の大通りはまっすぐで、このまま海まで続いているのではないかという風がさわさわと吹いていた。さわやかで気持ちの良い日。

さりげなく並ぶ背の高い椰子の木が平和な街並みをみつめている、風にゆさゆさと揺られながら・・・東京にはない風景である。

 

とくに、バスが到着した駅の周辺はとても広々としていた。

 

 

日南線の駅のとなりに、広々とした空間。

雑草も生えておらず、とても整備された広場は、何もないようにみえた。

あとから、志布志は3つの路線が交わり拠点となる大きな鉄道駅であったということを知った。

 

 

 

志布志駅は、白い壁、三角屋根の駅舎で、解放感があって洗練されたデザイン。

日南線不通により、行ったときは電車が来ない駅となっており、残念であった。

 

 

駅のなかにある観光案内所のガラス戸に目をやると・・・

 

「・・・なんか制服がッ!飾ってあるッ!」

 

次の瞬間、わたしは案内所の中にいた。

 

自動ドアがひらき、案内の方が顔をあげ、いらっしゃいませと明るく挨拶をした。

 

 

「あの、この制服は・・・?」

国鉄の制服を飾ってるんですよ。」

 

・・・もしかしたら・・・・触らせてくれるかもしれない、そして・・・はおったりなんかして・・いやいや、まだ頭がユラユラしていたので制服に触れることは自制し、近隣にある名所をおたずねした。鉄道公園や城跡に関する説明をしてくれ、周辺の地図もくれた。そして、「お荷物、お預かりしましょうか?」という声に助けられる思いだった。

 

そうだ、この旅は荷物の重たい旅、持ちきれないものを捨てるための旅、物理的にも、精神的にも。

 

重たい荷物と引き換えに、小さな紙をいただいた。その紙には、「志」の文字がちりばめられていた。

 
そう、ここは、「志」のあふれる街、志布志なのである。
 

 
・・・志布志の「志」好きは・・・志つこいほど・・・。
 

 

ところで、東京でお世話になっているライブハウスに「APIA40」があるが・・・

apia-net.com

 

ここにもAPIA(アピア)があった!

 

広大なショップでここに来ればなんでも揃いそうである。

 
代行タクシーを待つ間、どこに行こうか?
 
まずは、駅からまっすぐ歩いてすぐ到着できる「鉄道記念公園」に向かった。
2月というのに、ジリジリ照り付けるような日差しに汗をかきながら、すぐに到着。
 
椰子の樹々に囲まれ、こんなすばらしい看板が出迎えてくれた。
 

 
・・・そうか、わたしが「何もない」と思った空間には、かつて鉄道が走っていたのだ。
大隅線に、志布志線。
いま、背筋を伸ばしてまっすぐに見やる大通りには、線路も列車も無いが、かつては鉄道でにぎわっていたのだ。
頑張って、その風景を、想像しようとする。
 
志布志線については、この記事がわかりやすかった(↓)

www.mapple.net

 

鉄道の街としてにぎわったという志布志。黒煙をあげて駆け抜けるSLの姿を想像しようと努めたが、どうしてもそれを想像することができなかった。

 

そして、この公園はもと機関区だったところのようで、これは転車台の跡だそうだ。

 

 

地上に円が描かれるとき

それは花壇の花の配置を示すものかもしれない

それは天空の星座のコンポジションが投影されたものかもしれない

レコードのターンテーブルは音楽を奏でる

地上の円がきしむとき

それは機関車が載っているのかもしれない

その重たい影を回転させているのかもしれない

地上の円は日時計になって

また逆方向へ いや未来方向へ

進路をすすめる

噴水になった転車台が見えない機関車を回転させる

裏返されたレコードが新しい曲を奏でる

 

 

 

SLが飾られていた。いまにも走り出しそうな姿。

 
 

そして、真ん中のこれを、車掌車というのか・・・。
かつて、貨物列車の最後尾についていたという。
ここに車掌が乗っていたのか・・・・
むしろ、映画などでしか見たことが無いような車両に、新鮮な気持ちが沸き起こる。
そして、車掌の緊張感と誇りが、だんだん伝わって来た。
 
そして後部には「気動車」があった。
 
気動車ともなると、なんとなく懐かしさをおぼえる。
周囲の風景に溶け込む、優しいカラーリング。
 
そして窓の奥には・・・
手袋が、手袋が、手袋が!
 
さっきまでここで働いていた人々が、仕事を終えてどこかで休憩していますよ、といったような気軽さで、手袋がぶら下がっている。あたかも<志布志の鉄道のことを忘れてはならない>と、こちらの脳内に浮かぶ「印象たち」の手をにぎり、過去に引き戻すように・・・。
 
 
それにしても暑い日だ。もうすぐ春、というよりもはや春。せわしない季節の巡りのなかで、誰もいない鉄道記念公園は時間を止めたようにとても静かだった。思いは転車台で逆回りし、この街が鉄道の街だった頃の・・・在りし日の志布志のにぎわいを伝えてくれた。
 
公園には「志布志大隅 日南線のあゆみ」という手描きの年表があり、歴史の重みを感じさせてくれた。
 

 
それから、フェリーの停泊する港のほうに歩いて行った。志布志といえばフェリーである。
 
交差点に、やはり白を基調としたハイカラな建物があった。
わたしの育ったジャカルタを思わせる建物は・・・警察署であった。
 

同じ日本といえど、気候も文化もさまざまに異なるのだなと改めて知る。
 
 
さて、「観光だったら・・・このあたりに行きますかね?」と観光案内所で教えられた港に行った・・・が、そこにはほとんど人はおらず、もちろんお店などもなかった。
 
広がるものはただ港、船、フェリー、そして、海。
 
海は広いな大きいな。
 

わたしは酔いやすいのであまり船に乗ることは無いのだが、明治大正時代のことを書いた書籍を読むと、海外に行くにも船がファーストチョイスだったことがわかる。船という交通手段は、自分にとってはそれほど存在感があったわけではないが、それでも、あちこちからここに人や荷物がたどりつく「海運」という言葉を肌で感じる風景である。
 
鉄道が好きではあるが、船旅も良いものだろうと思う。
 
乗り物の酔いやすさと閉所恐怖が、良くなったらいいのに・・・
 

開かれているということは脆弱ということであり、もしも侵入者があれば身を翻し、いつでも閉じる準備が必要なのだと・・・歴史の教科書の鎖国のあたりを読んで感じたことがあった。
 
紫外線をたっぷり浴びた髪が風に乱れ、あわてて帽子などかぶる。
海の向こうに世界があるが目をこらさないと見えないものがある。
日本列島は海に囲まれた国で、南九州などはまさにむきだしなのだなと、あらためて気づかされる・・・何しろ、わが大田区の海岸は人工のもので、とても小さく、閉じているのだ・・・。
 

カフェなどというものはないので、林のなかで、持っていたお菓子とドリンクで、豪華なピクニックランチ。
この空間にいるのは自分ひとり。
ひろびろした石の机がもったいないほどで、<どうぶつさんたち、いっしょにランチしませんか~>と歌いたい気分だった。
 
「月と影とともに酒を飲む」のは「月下独酌(李白)」であるが、ここでは太陽と木漏れ日とわたしの3人でピクニックをする「陽下独菓」といったところか。
 
船がゆっくり航海するように、ここでは時間の流れがゆるやかだ。
大きなどんぐり、3個拾った。
 
足を伸ばして写真を撮った。
木漏れ日は気まぐれなかげふみごっこ、ちらちら。
ひとりぼっちのわたしの足元に、過去がからみつく。
令和の整った路の表面を一枚めくると、しがらみや追憶が汁をたらしながら足に絡みついてくる。
 
重たい荷物を抱えるためには、いま以上に逞しく、賢くならねばならない、そんな旅であることを思い出す。
 
元気でいなくてはならない。過去を背負って未来へつなぐために。
やけに気合いばかりを背負い込み、駅へと向かう途上、大きな鳥が翼を広げながらホバリングしていた。
 

その翼、大きいな・・・ぐるーり、ぐるーり。
 
椰子の葉っぱをかすめながら、円を描く黒い鳥の軌跡。
 
ふと、「わたしのおやつを狙っているのか?」という気になり、ピクニック気分だったわたしは緊張感で急に引き締まる。鞄のチャックを締め、空を舞うその黒いものをにらみつける。
 
空を舞うものが敵でないとは限らない。
そして、動物たちが味方であるはずがない。
 
鹿屋、知覧。戦争に紐づけられている南九州の地名を思い出す。
あらゆる地には来歴があり、過去がしみついていることを思い出す。
そして人間には見えないが獣たちが食糧を常に求めていることを思い出す。
 
そろそろ、駅に、戻らなくては。
 

 
「鹿児島県」という字数の多い言葉には「ドキッ」とする。
なぜ、なかに「児」の文字が入っているのか・・・その、どこか恐ろし気な字面は、わたしに異国情緒を感じさせる。
そんな鹿児島は穏やかに旅人を受け入れてくれる。
 

 

・・・背の高い椰子駅員が3人もいつまでも身を振り見送ってくれる空を海を路を・・・

 

 

・・・留まらず旅立ちの地のここは志布志まどろむフェリーとまぼろしの駅・・・

 
 

駅前には山頭火の歌碑もあった。
確かに「一きれの雲もない」そんな志布志の空であった。
そして、ふと思いついた。
「し」は「志」の漢字だけど、「詩」も「し」と読むことができる。
だから「志布志」を「詩ぶ詩」と書いても、良いのだ、きっと・・・。
どんな街も、わたしにとっては詩の生まれる街。
 
・・・「ぶ」は、どうしよう?
 
 
預かってもらった荷物を取りにゆき、日南線代行タクシーに乗った。何名か同乗の人がおり、車内はほんのりと汗の香りがした。「まるちょんラーメンに行ったけど混んでたよ」という男性客の雑談が印象に残った。
 
あとで調べてみると、志布志駅周辺にはそれなりに美味しそうな飲食店があった。
イタリアンのお店などに惹かれつつ、今度行くときには飲食を楽しもうと心に誓い、代行バスに乗り込んだ。
 

代行タクシーは海と山の風景を縫いながら渋滞もなく走る。ときおり草木にまぎれた日南線の鉄路が見えた。いまは台風の影響で不通となっている区間。草木の生命力あふれる森のなかを鉄道が走ることすら、今は奇跡のようであるのだ。

 

わたしを乗せたタクシーが県境を越え、宮崎県に入っていった。

 

(つづく)

 

 

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◆松岡宮からのお知らせ

 

1)新しい動画「SalesCall」をYouTubeにアップしました。

 

 

youtu.be

 

音源というより長いサンプリング作品なので、真剣に聴くようなものでもありませんが・・・東京の固定電話には、こんなにもたくさんセールス電話が来るのだという作品・・・でも、かけている方々も、いっしょうけんめい働く人々で・・・困りながらも、働く皆さんには頭も下がる思いで・・・詐欺は許せなくて・・・

いつも気が弱く、騙されたり押されたりされてばかりのわたしも、もうどうしていいのかわからなくて・・・固定電話をもつ一人暮らしの高齢者は多いと思いますが、どうにかして家に上がりたいという電話がこんなふうにたくさん来るので、油断もスキもないですし、周りの方はどうか連絡をまめにしていただけたらと思っています。

 

絵は、流れみずタワシさん。この日のために描いてくれたように、ぴったりな感じですね。使用許可ありがとうございます。

 

 

3月6日(月)誕生日間近ですが、原宿クロコダイルのウクレレエイドという緩いイベントでライブパフォーマンスいたします。

 

クロコダイルは伝統ある素晴らしいライブカフェで、しぶし・・・じゃなかった渋谷から歩けます。 

 

とてもグレードの高いお店なので、他のイベントのチャージは高額ですが、この日はMusic チャージが500円と安く(+飲食オーダー)、15分ずつウクレレ中心にパフォーマンスする、ゆるいイベント。おしゃべりなんかも出来ちゃう雰囲気で、楽しめる一夜。

 

わたしに限りませんが、アーティストは、ライブへのご来場と、音源の購入しをていただくことが活動の助けになります。どうぞよろしくお願いします。

 

 

何歳になるの?って訊かないでください・笑

 

 

 

 

記事はこれで終わりです。以下は投げ銭です。

 

この続きはcodocで購入