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串間シリーズのあらすじ
宮崎県串間市は父の故郷。
わたしは、ずっとそこに住んでいた叔父(独身)の身元引受人であったが、叔父が亡くなって家の片づけをしているうちに、気づくとその土地+壊れかけの建物の相続人になっていた・・・。
いよいよ不動産屋さんと逢う約束をした4度目の串間の旅は・・・いかに!?
これまでの記事はこちらに。
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4度目の串間の旅。時期は、2月上旬であった。
今回は宮崎空港から日南線で移動する予定だったので、宮崎市や青島などに宿泊することも考えた。
名前だけはよく聞く青島。
きっと青い海が美しい場所なのだろうな・・・。
多少、奮発しても、ビーチリゾートに泊まってみたい・・・一人旅だが・・・そんなことを考え、楽天トラベルなどを調べてみた。
しかし、なぜか、どの宿も埋まっている。
青島だけでなく、宮崎市の主だったホテルも、満室の表示が続く・・・。
ふと、2月上旬はプロ野球キャンプが宮崎に来る時期であることを思い出した。日南あたりまで宿は埋まっているようにみえ、やはり串間に宿を求めるしかないことがわかった。
串間の宿を探そう。
◆
いままでは、串間で唯一の宿のようにみえた「ホテル中村」に宿泊していた。
実質、ここしかないのではないか・・・と思っていたが、2023年夏に行ったとき、「串間スマートホテル」という新しい「無人管理のコンテナホテル」が誕生したことを知った。
環境に優しく災害に強いコンテナホテルは、まさに令和らしいスタイルのホテル。以下の記事によれば解体業者がその廃材などを利用してエネルギーを生み出しているとのこと。
そう・・・解体業者。
ぬおおおおお、解体業者。
これは書いてもいいと思うのだが、この解体業者こそ、わたしが相続した家の解体を昨年夏にお願いした業者なのだ。灼熱の夏、松岡の家を解体したときの廃材が、このホテルの温水などに活かされているのかもしれない・・・
そんなことを思ったわけでもないが、最新の技術を導入した無人ホテルというものに関心が出て、こちらに2泊することにした。
楽天トラベルで予約。
「シングル 清掃不要 素泊まり連泊プラン」、2泊で9600円。お安い。
◆
前の記事に書いた通り、フライトは午後であった。
ラウンジを出てお弁当をいただき、歯を磨いていたところ、「機内へのご案内」のアナウンスが流れた。機内への案内はたいがい、「ファーストクラスの方」、「お子様連れの方」が最初に呼ばれる。しかし、閉所恐怖でなるべく機内にいたくない自分にとっては、最後に呼ばれるほうが「サービスが良い」。最後までトイレにこもり、航空券を取り出す。覚悟を決めて機器にバーコードをあて、機内に入る。
飛行機はすいており、3人掛けの席にはわたしだけであった。前の座席の下に荷物を蹴り入れる。フライト時間は1時間39分を予定している、雲が出ている影響で揺れるかもしれないが安全に影響はないというアナウンスが入った。
そして、ゴーッという轟音を立てながら、離陸。
わたしを乗せたソラシドエアSNA061便が曇り空をぬって雲を突き刺し天に昇ろうとしている。閉所恐怖とは予感の恐怖であるが、この日はそれほどパニック発作を引き起こさなかった。やはり午後だと気分的には良いのかもしれない。あるいは、ラウンジによるテンション増大効果もあったのか?
タブレットを取り出し、音楽を聴く。最近は洋楽縛りである、
上空でシートベルトサインが消灯した。グレイのワンピースに、テーマカラーであるピスタチオグリーンのスカーフを巻いた女性従業員がドリンクを配ってくれたので、コーヒーを頼んだ。とても美味しく、精神が和らいでゆく。
雲の上はいつも晴天である。まるで幼い頃に物語で観たような天国の具現化。便箋の片隅に描かれた天使のイラスト。ふわふわの雲の世界に精神が泳いでいたとき、雲を突き抜けている「みね」を見つけた。
・・・もしかして、富士山?
あわてて座席の前ポケットに入っていたソラシドエアの冊子「ソラタネ」で航路を確かめると、確かにこれは富士山のようだ。
色澄みわたる雲の荒野にひとつだけ頂が顔を出す、長身の謙虚さで。
沸き立つ気持ちで富士の頂を通り過ぎ、やや時間がたったとき、男性の声で「左手に浜名湖が見えます」というアナウンスが入った・・・
その時、わたしは思った・・・
富士山の案内はしないのに浜名湖の案内はするのか・・・?
◆
機内にはUSB充電口があった。最近はもう、出先で充電できる場が増え、重たいバッテリーを持ち歩かなくても良いのかもしれない。また機内WiFiで楽しめるエンターテインメントプログラムが放映されているとのこと。今回はフライト時間も短かったのでトライしなかったが、道理で最近は「機内ではスマホの電源を切れ」とは言われないんだな・・・と納得した。
小さな機体が紀伊半島や四国の南をかすめ、目的地・宮崎空港に近づく。高度を下げれば雲間に入り、機体ごと揺れる。窓の外に海辺の町が見えてきた。羽田周辺とは違う色の風景、背の低い建物たちが銀紙に包まれたように光る。
ゴウンと腰に重い衝撃を受けたあと、宮崎ブーゲンビリア空港に着陸したとアナウンスが入った。
そのときわたしはふっと思った。
「宮崎が好きだ」。
ああ、宮崎が好きだ。
「松岡宮」という何の意味もなくつけたペンネームさえ、宮崎の宮だったように思われた。
「やしのみポケモン」の「ナッシー」が出迎えてくれた。
この硬質なイケオジは誰?
この時期の宮崎はプロ野球以外にもスポーツのキャンプが押し寄せているようであり、活気が感じられた。
空港に咲くブーゲンビリアの花。
熱海が北限だそうで、あまり多摩川河川敷などでは見かけない花である。
◆
さて、いよいよ「宮崎空港」から「串間」まで、日南線の鉄道の旅である。
路線図は以下の黄色い線・・・と言いたいところだが、串間が遠すぎて画像に収まり切れない。黄色い線の左端「南郷」よりさらに左に数駅いったところに串間はある。
宮崎空港駅でしばらく待つ。曇り空のもと、グレイの大柄な列車が停まっている。
JR九州787系。甲冑のような面差し。
JR九州の制服については、背中に燕が居るのが新鮮だった。かしこまった制服というイメージだが、下半身だけを見るとスラックスの中央を走る一本の線がジャージのようにも見えた。
◆
空港で列車に乗り込みひと駅、すぐに「田吉」駅に到着すると、向かいのホームには日南線「油津」ゆきが待ち構えていた・・・・乗り遅れたら大変!短い編成の白い車体にカートを引きずり込む。「山側」と書かれたロングシートに座り、ほっと一息つく。
車内は意外に混んでおり、普段着の若者が多かった。コートを着ている人はわたしだけなのではないか、いかにも旅人という服装が気恥ずかしい。中学生くらいの女子が2名、サンリオ紙袋を大事そうに持っていた。
まだまだ串間まで長い道のりであるが、ともかく日南線に乗ると、ほっとする。ガッコン、ガッコン。古めかしい車体はよく揺れた。日南線ではWiMaxがつながらず、いよいよ東京から離れてしまった感慨のまま、うたたね・・・
青島、飫肥(オビ)、次は日南・・・うろ覚えの振動のなか、乗客がだんだん減っていった。
◆
白い列車は夜に向かい、19時24分、終点「油津」に到着した。ひとまず降りて、しばらく待つのかと思いきや、すぐに「志布志」ゆきの日南線に乗り換えることが出来た。事前にYahoo路線検索で調べたときには出てこなかった乗り継ぎだ。
目的地「串間」に向かう「志布志」ゆきの列車は19時27分に駅を滑り出す。
小柄な運転士が夜の世界に溶けてゆく。
茂みを駆け抜けるとき枝はバキバキと日南線の窓を叩いてゆく。乗客はまばら、日南線がだんだん深い海に潜ってゆく。
そして20時17分に「串間」駅に到着した。
最近、とても綺麗になった駅舎。
しんと静かな駅前に、ローソンの青い灯りがともる。
駅からホテルまでは徒歩5分とある。
地図によれば、駅を出てすぐ前を走る国道を右に数百メートル、それから右折。スマートホテルまでの道は単純であり、迷いようもないはずだった。
しかし、道路が真っ暗だとは思わなかった・・・。
誰もいない国道を、カートを引きずり、テクテク歩く。一等地のはずなのに、廃墟のような建物もあった。
ふっと、「恐怖」が訪れた。なぜわたしの身はいま九州の宮崎にいるのか。人間ひとりの身体からすれば大地は大きなものであり、この闇のなか、オロチに喰われれば行方不明だ。警戒心がつのる。時々行き交う車のライトが濡れない噴水のように我が身に届く。目撃者が多いことが、身を助ける場合があるかもしれない・・・などと考える。
田舎の道に目印は乏しい。どこで右に曲がるのだろう?と思っていたところ、「串間スマートホテルはこちら」という右折の目印となる看板があった。助かった。
重たいカートをゴロゴロ引きずり、すぐに現れた踏切を渡る。開きっぱなしの踏切を、透明な銀河鉄道が駆け抜ける。
やっとコンテナホテルらしきものがみえてきた。
なんとか到着できて、ほっとした。無人のスマートホテルであるので、スタッフは誰もいない。入り口で、事前にいただいていたメールをもとにチェックインの手続きをする。この手続きは若くない自分にも簡単にでき、無事にチェックインが完了した。
出てきたレシートに印字された数字が、ホテル内に入るためのパスコードである。
パスコードを入力すると、自動ドアが開いた。
このレシートは大事であるのでお財布に入れつつ、数列を覚えようと試み、翌日には記憶で出入りできるようになった。
新しいホテルだけあって、部屋は普通のビジネスホテルのようである。ただ、シングルで頼んだのに、ベッドはツインで、枕が2個・・・部屋を間違えたのか?
・・・ツインで頼んでしまったのだろうか?
心配になったが「大は小を兼ねる」ということで、快適に過ごした。
◆
周囲にコンビニも飲食店もなかったので、駅のローソンでも良かったが、なんでも売ってるニシムタまで足を延ばし、食料品などを買い込んだ。
旅先で不足しがちなサラダ、忘れぬようにマヨネーズ&ドレッシング。それに加え、髪の毛がボサついているのが気になり、ヘアオイルも買ってみた。
これらの食料は、翌々日の帰りの朝食までにおおむね食べきり、丁度よかった。
この部屋に2泊したが、「清掃不要」の札を出しておくと室内に人が入らない点がとてもよく、気に入った。これから串間に行くときには、ぜひこのホテルを使おうと思う。
また、これから串間に旅に出る人に伝えたいこと、それは、「なんでも売っており、遅くまでやっているニシムタが便利」ということである。不便そうな土地には、逆説的な利便性がある。選択肢の少なさが、良い結果をもたらすこともある。
買ってきたお惣菜をしっかりいただき、満腹のまま、ベッドにもぐりこむ。
いよいよ明日の朝、不動産屋さんに行って話し合うのだ・・・しっかり頭を働かせないと・・・。
・・・緊張していたのか、あまり眠れない夜を過ごした。
今日ここまでの間に、叔父や父のことをあまり考えない自分に気づき、自分は薄情なのかと思ったりした。そして目を閉じて過去のことや死者のことを思うと、それらは里山の闇のなかにいくらでも膨らみはじめる。お父さんにじゃれつく末っ子の自分がいる。竹林に入り込み手を切って怒られる自分がいる。だが時間は一方向に流れてゆき、誰もが潮の流れに乗せられて、気づけば必ず「ここ」にいる・・・死者は「ここ」から取り残され・・・ああ、叔父さんも「ここ」からいなくなってしまいました・・・。
だけど飛行機の窓から見えた風景のように、雲の彼方には光が生まれる地点があり、また新たな命が「ここ」に生まれる。
・・・あの「光」が、「ここ」までうまくやってこられますように・・・
自分の死について考えてしまうあやふやな地の上に立つとき、過去ではなく、まだ見ぬ未来を想像し、それに沿ってものごとを進めてゆく選択肢があることに気づく。串間の闇の深さがもたらす光の有難み。一番列車はまだ来ない。
ホテルはとても静かだった。
(その3に続く)
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◆松岡宮からのお知らせ
♡たびぽえ7号 出ました
こちらの「たびぽえ7号」に、
串間の都井岬の馬を描いた詩と写真を掲載していただいたのですが・・・・
なんと、もうお一方、都井岬の馬の詩を書いている方がいらっしゃいました。
でも、ちょっとお下品なわたしの詩とは違い、美しい言葉選びが光る詩でした。
串間の詩が2本載るなんて、すごい偶然なのか、都井岬が詩情をくすぐるのか・・・。
ほかのページも、国内外問わず、あまり知られていない場所に関する文が多いと感じました。
あまり目立たない地方都市も応援したいというこの雑誌、おすすめです。
♡
もうすぐ誕生日なので、「誕生日に何か欲しいものはありますか?」と聴かれることがあります・・・
「作品を聴いてくれること」一択です♡
お金かけなくてもよいので、感想でもいただければ、活動の励みになります。
おすすめはBandCamp。フル視聴できます。いちおしは「アップアップ後楽園」。
余裕があれば事務所のショップで何か買っていただくのもうれしいです。
ここだけの話・・・このショップに超・不器用な自分によるハンドメイドの「着物スリッパ」売っていますが、事務所には試作品が少しだけあり・・・事務所にお越しいただければ差し上げます★
スリッパの底は厚手の帯で出来ており、地震などで床に破片が散らばったときに、ある程度、安全なのではないかと思います・・・???
♡
そして、久々の販売イベント。
3月31日(日)第3回秋葉原『超』同人祭+
「車掌レーベル」としてブースを出して、CDを販売しますが、
ハンドメイドの車掌さん帽子も販売します!
頭囲61cmくらい、男性でもOKかと・・・あまり品質に自信がなく、通販には出していませんが・・・現地で手に取って、売れたらいいな~と思います。
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超・不器用なわたしがミシンをはじめて10年・・・ちょっとは上達できたかな。
わたしの事務所、すっかりものづくり事務所ですね。東京にお越しのさいには、遊びに来てください。
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