ポエトリー松岡宮のブログ

詩人のくらしです

4度目の串間の旅 その4(都井岬灯台ふたたび)

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串間シリーズのあらすじ

 

宮崎県串間市は父の故郷。ずっとそこに住んでいた叔父が亡くなって姪のわたしが家の片づけをしているうちに、気づくとその土地+壊れかけの建物の相続人になっていた。

移住か?二拠点か?売却か?迷いながら不動産屋さんと会談した結果、売却することに決めたのであった。

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これまでの記事はこちらに。

ekiin.hatenablog.com

 

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「売ります。」

 

そう決めて不動産屋を出て、相続した土地に向かう。赤い木の実が揺れる坂道を登れば、足裏に感じる道路の感触もいとおしい。古びた家も店舗も多く、人は少ない静かな住宅街。「わたしの未来の街」だった串間が、売却を決めたとたん、誰か他人の街になる。その新鮮さで、また周囲を見回し、風景を記憶にとどめておきたいと考える自分がいる。

 

もうすぐ右手に、わが実家だ。

昨年夏に、業者に頼んで壊れかけのひと棟を撤去し、もう一棟の建物の中身をすべて廃棄していただいたはずの、わが土地が、あるはずだ。

 

・・・しかし、わたしの目に現れたその家は・・・

 

・・・・片付けられていないんだが!

 

中の荷物は、見事にあの時のまま。

・・・・わたし、タイムスリップしてしまったのかしら・・・串間って、ときどき、タイプリープしてしまうのか・・・?

 

驚いて、片づけを依頼した業者に電話したところ、コール2回くらいで、すぐに若者が電話に出た。

 

夏に仕事を依頼したものだと告げると、すぐにどこの家のことか、わかってくれた。

そして、事情を説明すると、

 

「すみません、今からやります!」

 

との返事・・・。やれやれ。

こういうことはよくあることなのかもしれない。

不動産屋さんが先ほど言った「串間のペースは東京と違っていて・・・」という言葉を思い出した。

 

 

・・・叔父さん、なかなか荷物が片付きませんね・・・。

 

叔父があの世から忘れ物を取りに来たのかもしれないな・・・天国に向かうお金と衣類とかを取りに来た可能性もあるか・・・

 

そんな、この部屋の荷物たちにも、3度目の正直で、さようならだ。

 

あとは業者にまかせ、コミュニティバス「よかバス」で、都井岬に行くことにした。

 

 

 

オレンジ色の「よかバス」は便利である。都井岬灯台ゆき、片道200円、およそ25分程度の旅。串間駅のバス停から若い外国人の女性2名が「Toi Cape?」と尋ねながら乗り込んできた。都井岬はそれなりに観光名所として知られているようである。

 

都井岬灯台は、日本でも珍しい「のぼれる灯台」である。

 

こんなこともあろうかと思って、のぼれる灯台のスタンプ帳(灯台参観記念スタンプ帳)を持ってきていた。

 

 

これは、詩友・青条さんが、茨城県の塩屋埼灯台の土産に買ってきてくれたものである。(青条さんのこちらの記事を参照)

 

note.com

 

こちらの記事によれば、青条さんは、「ここに来ていない人のスタンプは押せない(”代返”は出来ない)」といわれたそうで、わたしのスタンプ帳は、まだ白紙。

この日、都井岬灯台で最初のスタンプが押される・・・はずである。

 

 

バスはゆるやかに川を渡り、山深いほうへ、ぐんぐん向かう。

車窓風景の丘の上に風力発電の羽がみえた。親友の「串間には原発がこなかった」という言葉を思い出しつつカメラを構えていたらすぐに車に酔ってしまい、あわてて目を閉じる。

目を閉じてもわかる、自分の標高が上昇してゆく。

風は追い風、馬の待つ丘の上までこのバスを連れてゆく。

 

 

先ほどの観光客は手前の施設「パカラパカ」で下車し、終点「都井岬灯台」まで行った客はわたし一人であった。

 

「のぼれる 都井岬灯台」のシンプルな案内に従い、最後の坂を、ひと登り。

営業していない土産物屋は古ぼけており、時代を感じさせた。

 

 

もう閉店したのか、あるいは繁忙期には開店するのか、それはわからない。

 

灯台の敷地に痩せた馬がおり、一心に草を食んでいた。

 

 

受付には、若手女優のような風貌の女性職員の方がいた。

入場料金を払い、そして、スタンプ帳を出して、スタンプを押してもらった。

その女性はわたしが出したスタンプ帳を丁寧にめくり、「・・・・あら、まだ、白紙なんですね!」と不思議そうにいった。

そう、どこにも行ってないなら、なぜこのスタンプ帳を持っているのか?不思議に思うのも無理はない。

若手女優のような受付さんは、わたしのスタンプ帳に押される初めてのスタンプを、丁寧に押してくれた。

 

 

それにしても、いつ行ってもわたしだけしかいないこの灯台に、職員が必ずいることも奇跡のようである。

この女性職員は、ずっと都井岬の受付や管理の仕事をしているのだろうか、観光客が途絶えるオフシーズンも、誰も来ない台風の日も・・・?身分は公務員であろうか?異動はあるのだろうか?もしかしたら、馬の妖精・・・・?などと、つまらぬ空想をした。

 

ソテツの間の階段を昇り、空行く雲よりも真白い、まさに「白亜」の灯台に向かう。

 

 

踏みしめる靴底に大地の感触、ずわり、ずわり。

一歩、一秒。たしかに過ぎゆく時間を踏みしめる。

今日のお客は、わたしひとり。

中の階段をのぼり、外に出てみれば・・・

 

海だ!

 

厚い雲が海を覆い、空と海の大きさが感じられた。

陸地は小さいもので、日本は四方を海に囲まれていることを思い出した。

 

高いところから見下ろす広大な海と、海に向かってそそり立つ岬の森は、自然の雄大さを実感させた。人間ひとりは小さくて、この自然のなかで生きてゆくことは、簡単なことではない。弱い人間が生かしていただいている。畏敬の念が湧いてくるとともに、こんなに豊かな自然あふれるこの地と縁が切れることが惜しいような気がしてきた。わたしも岬のある街で生きたかった。

 

 

灯台に昇ると、そのフロアから屋上庭園として少し離れたところにも行けるようになっていたので、そちらに移動する。

 

そこで一休みして、鞄のなかに入っていたパンをかじる。

青と緑の風景のジャムを塗る。

味はないが歯ごたえがある。

 

父なる灯台の傍に腰掛ける。

いちどは東洋一の光度を誇ったこともあるという都井岬灯台

空襲でいちどは破壊されたというその灯室。

少し離れてみると、灯台というのものが光を放つための作りをしているのだと気づく。

この地の安全と秩序を守るための存在。

厳しさもあるオトウサン。

こうして昼間に眺めていても、その姿には光が含まれており、光を保持しているという安心感がもたらされる。

 

夜になれば、まぶしいほどの光を放つのだろう。

岬はここにあると、旅人に伝えるために。

 

見下ろせば、馬さえも小さくみえる雄大な風景。

こんな自然のなかにいれば、時間の流れが人間の思考のペースとは異なるのも無理はない。東京とは違う世界が、ここにはある。

 

 

灯台の内部には、こんな張り紙があった。

 

 

・・・なぜか大文字の、WWW。

 

・・・さきほどの、若手女優に似た女性がこれを書いたのだろうか。

 

やはり串間は、この都井岬灯台は、時間の流れが歪んで、過去にループしたりするようである。わたしは帰りがけに受付にいた”おばちゃん”に声をかけ、都井岬灯台のお土産を買った。

 

そして、総合施設パカラパカまで、徒歩で山道を下って向かった。

 

途中、何匹か御崎馬に出会った。

 

 

一心に、草を食んでいる。

そこには余計な雑念などない、ただ生存のために本能がある。

 

馬はそれほど集団行動しないようであり、単独で草を食んでいる馬をよくみかけた。

 

 

一般に馬のイメージといえば「カッコイイ」。

馬の身体にはいっさいの無駄がないように感じられ、まるで神が作り上げた完全な身体のように思える。馬をみていると詩を書きたくなる・・・。

 

 

そう、馬をみていると詩を書きたくなる・・・というわけで、2024年2月に出たばかりの「たびぽえ」には、わたしと、もう一人別の詩人の方が、都井岬の馬の詩を寄せている。

 

 

御崎馬には詩情があるのだろう・・・。

都井岬では、みな、詩人になる。

 

 

そして、最近、都井岬に新たなキャンプ施設が出来た。

 

ウェブサイトはこちら・・・。

 

toiglam-solasita.jp

 

このウェブサイトを見ると、とても美しく、豊かな自然のなかで、星のまたたく夜のふもとでテント泊を楽しめるのだろうと、ワクワクする。

 

その新たな施設は「パカラパカ」の向かいにあった。

 

こちらである。

 

 

 

・・・思っていたのと違う。

 

・・・この写真のような実物を見たときに、なんというか、ウェブサイトや写真から受けるイメージとは違うものを感じてしまった。

 

いや、いつの日かこういうテント暮らしをしてみたいと憧れるものの・・・

 

思っていたのと違う。

 

いつも、いつも・・・人間が作る膨らみすぎた夢や素敵なイメージは、リアルによって修正を迫られる。

逆にいえば、人間はわずかな情報から過大な夢や素敵なイメージを膨らませ、その想像力のパワーは現実を覆いつくすほど強いのだ。だから旅人のわたしも、串間の風景の断片を垣間見て、そこに過剰な「素敵イメージ」を見ているのだけど、住んでみるときっと違うのであろう。

 

それでも、そこにある自然だけは、裏切らない。

 

「串間の人」になれなくて、残念であった。

 

 

「パカラパカ」でお土産をどっさり買いこみ、また「よかバス」に乗って、わたしの実の土地へと戻った。

その実家の土地にはトラックが入り、今度こそ、片付けを行っていた。

 

片づけを行っているのは、若手女優のような方であった。長靴に軍手、ヘルメット、マスク、メガネ、顔をすべて覆い、アウターも重装備。古い家の片付けというのは、本来、このくらい装備しないといけないほど危険な作業であるということに気づかされた。

 

 

「お疲れさまです」

わたしがそう声をかけると、片付けをしていた”おばちゃん”が、「ちょうどよかったわ、お金があったの。どうしようかと思ってたの。」ということを告げ、そのお金をジャラっとわたしにくれた。

 

あ、ありがとう、叔父さん・・・。

 

やるべきことは全て終わった。あとはその業者に任せ、スマートホテルに戻ることにした。

 

 

 

 

名前のわからない鳥が赤い実をついばみながら春を告げていた。

 

 

(つづく)

 

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◆松岡宮からのお知らせ

 

 

5月19日(日)14時台 デザインフェスタでライブします。

東京ビッグサイト 南館4階のパフォーマンスエリアです

(大きなショーステージではありません)。

この写真のハンドメイド車掌帽子も売ります~。

デザフェスはとても巨大で面白いイベント。おすすめです🌸

 

 

最近、やっとCDやサブスク音源が聴かれるようになってきた実感があり、購入者には感謝申し上げます。

 

現在購入できる松岡宮のCD音源は、以下の3種です。

 

【「緊急地震速報の夜に」収録】Miya Matsuoka CD-R "Emerald Green Ward"松岡宮CD-R 「エメラルド・グリーン区」 | Kamata Poetry Music Shop

 

【Train songs】Miya Matsuoka CD "Limited Express 383" 松岡宮CD "Limited Express 383" | Kamata Poetry Music Shop

 

【Train songs】Miya Matsuoka CD ”The Conductor is Lonely Too" 松岡宮CD「車掌もひとりぼっち」 | Kamata Poetry Music Shop

 

「針金でできたお母さん」という、食べたら吐く食べたら吐く曲がインパクトあるようですが・・・「摂食障害」を描いたものではありません・・・食べて吐くのはストレスを受けた動物のふつうであり、つらいときのつらいをうたっているのです・・・。

 

緊急地震速報の夜に」という曲がサブスクで売れています。小規模ながら、ヒットするということはこういうことかと、他の聴かれない曲との差を感じています。どうもありがとうございます。

 

音源を購入していただくと、今後の製作の資金と心の励みになります。

どうぞよろしくお願い申し上げます。