松岡宮のブログ

詩でうた作り

二度目の都井岬(都井岬灯台の灯台守)

 

闇の世界で、貴重な光を守る人。

 

灯台守」という言葉には、なんともいえない郷愁と温かみを感じる。

 

都井岬灯台のなかの小さな展示室に「灯台を守る人々」という文章が掲示されていたので引用する。

 

 海に生きるすべての人を見守る灯台

 かつて、この大切な灯台を管理する職員は、「灯台守」と呼ばれ、灯台やその近くに家族とともに常駐していました。

 灯台は人里離れた岬や孤島などに多く、職員とその家族はきびしい環境の中で、あらゆる不便な生活に耐えながら、灯台の灯りを灯し続けていました。

 

 

人里離れた岬や孤島で 灯台の灯りを灯し続けるひと・・・。

 

灯台守の生活のすべてが灯台を守ることにつながっていることが理解できた。

そして、もう居ないということも知った。

 

 

灯台についてまったく何も知らなかったが、図書館から貰ってきた「灯台ミニガイド北海道編(小山心平編著、1995年、さっぽろ文化企画)」という本を読み、一般的な灯台についての知識を得た。

例えば、「2)灯台の生いたち」というページによれば、灯台の起源は紀元前279年にエジプトのアレキサンドリア港に建てられたファロス灯台であり、日本では明治初期に作られた神奈川県の観音埼灯台が最初の洋式の灯台だそうである。何でもそうかもしれないが、灯台の歴史も日本の近代化とリンクしている。

同じ本の「4)灯台の働き」では、「灯台は船が正しい航路で安全に進むための目印である」と書いてあり、改めて灯台の果たす役割の重さを知る。

 

夜闇にくろぐろと波打つ湾があり、航路をたどる船がある。そして、その船を導くものが灯台の光。

光というものは、人のこころを安心させてくれる。

 

なんてありがたいもの、光。

 

だが、四方八方から強烈な光を浴びせてくる不夜城の都会では、灯台のあかりに気づくことはない。それは、闇の中で目をこらしたときに、あるいは瞳を閉じて気持ちを集中させたときに、ぼんやり浮かんでくるものである。その灯りは、黒潮に迷う小舟のような自分の精神を、安全な方向に導いてくれる。

トビウオの群れがきらり、とても自由に舞うのをうらやましく見る。

 

40Km以上先まで届く光を放つひと。わたしのなかにも灯台守がいる。

 

 

「いま、串間に向かってるところだよ」と親友Aちゃんに連絡したら、「串間は奇跡的に原発を追い返したところ」と教えてくれた。

 

調べてみると、90年代に串間原発の構想が現実化を帯び、賛成派も反対派もおり拮抗し、その意思を問う住民投票も予定されていたが、その直前に3.11が起きて住民投票は中止となり、事実上、原発は来ないということになったようである。

 
 
2度目の串間の旅。
また都井岬に行こう。串間温泉にも立ち寄ろう。
欲張りな計画を立てて駅まで向かった。
 
串間のコミュニティバス「よかバス」は小さなオレンジ色の車だった。乗客はわたしひとり。1日乗り放題(400円)の切符を見せて乗り込み、シートベルトを締める。
 
工事中の駅前広場から出発したバスはすぐに左折し、立ちはだかる山のほうへと向かった。川を渡るとき水面に照り返していた2月の太陽のまぶしさが、旅に疲れた自分にエネルギーを注いでくれた。
 
ところで、このバスに乗っているのは自分だけであり、観光客の姿をほどんとみることは無かった。いつもわたしは「CDが売れなくて(;;)」と嘆いているが、お客になるというのはなかなか大変なことだと思う。自分に何らかの余裕がないと、お客になることはできにくいことなのだ。だからこそ、自分はよい客になりたい・・・と思う・・・正直なところ、自分はあまりお金や体力に余裕があるわけでもなく、どこに行っても観光を熱心にするほうではないのだが・・・観光地のためになるのであれば観光めぐりをするのは良いことなのだ・・・旅行支援の機運が高まる2023年初頭、そんなことを思いつつ、都井岬に行く途中にある「串間温泉 いこいの里」に立ち寄ることにした。
 

 

広々とした平地に建つ立派な施設で、入浴代は500円と手ごろ。

バスタオルを借りて、「ミストサウナ室」があるほうに入った。かなり広さがあるが薄暗く、大浴場のほかに電気風呂や寝そべることのできるお風呂、サウナ室もあるようだ。

 
しゃるるらら・・・しゃるるらら・・・
チチッ。
 
ガラス窓の向こうに木々の茂りが幾重にも折り重なり、風にたなびいている。
ときおり鳥が飛んで何かをついばむ。
串間温泉のこの空間で聞こえるのは水流音。
誰もいないのかと思いきや、大浴場の霧の向こうに女性の顔がふいに浮かんでびっくりした。恍惚の表情を浮かべた女性。ミストに包まれたその空間には2~3名ほどいたが、串間の人はもの静かなのか(?)知り合いどうしのようであったがあまり話し声は聞こえない。
 
わたしは空気中を泳ぐ魚になり、薄暗いミストの海のなかを、灯りを頼りにそれぞれの浴槽にゆっくりと浸かった。ほどよい熱さの温泉は気苦労の多い昨今の心身を癒してくれた。
 
 
施設の玄関の池にはたくさんの鯉が泳いでいた。
カツン、カツンと音を立てるわたしの靴音は彼らに何かのサインを与えたようで、ウゾウゾと集っては口を開いてきた。
池の小さな空間に身を固め、押すな押すなと押し寄せる鯉たち、大きく口をあけて水を吐き出し、さあ餌ください、さあ餌くださいと、オペラント条件づけの大合唱をはじめる。人間社会のなかで育って適応した魚たちのウゾウゾ。そんな鯉の期待に対し、何も差し出せるものは無かった。
 
だけどわたしも同じなのよ、餌がほしいときは身をよじらせてただ口をあけるしかないのよ。
 
 
温泉でスッキリしたあとは、ふたたび「よかバス」に乗り、都井岬へと向かった。
 
前回は新しい施設「パカラパカ」で降りたが、今回は終点の都井岬灯台まで行ってみた。
 
ここは、全国でも16か所しかない、登れる灯台である。光会のウェブサイトが参考になった。
 
 

 
 
白亜の灯台は、洋風でハイカラな雰囲気。
もじゃもじゃと茂るソテツの樹に囲まれ、南国ムードを醸し出していた。
 
受付の方に300円を払う。お客はわたしひとりだ。ソテツの歓迎を受けながら、中央の階段を登り、光のもとへ。
 
カツン、カツン・・・
 
天然のリヴァーブだ、かつん、かつん・・・
 
らせん階段を昇れば強烈な足音の反響が薄いコートを包み込み、足音ひとつごとにこの身は天空の光に近づきつつあった。
 

空へと届くきざはしを、無心になって歩みゆく靴。

 

ほどなく到着した展望台から、日向灘が見えた。

 

なんて大きな海。なんて大きな空。

浮かんでみえる船は、海上保安庁の船だろうか。

 日本が四方を海に囲まれた島国であることは、知識として知ってはいても、都民の自分にとってあまり日頃実感していないことであった。しかしこの灯台に立ち海を見渡すと、海はただ広く、陸地のほうが小さく、海岸線は複雑に入り組み、何かがどこかから入ってくることがありうるだろうなと感じられた。

 

日本という国があって自分はその一員であること。国家は日本列島を守っているのだということ。国家というものを地理的観点から意識したのは、はじめてだったかもしれない。
 

 
灯台守は誰ですか
白い制服をまとい
静かに真昼の海をみつめているひとは誰ですか
光をともす可能性だけを制服の内ポケットに隠しながら
日時計になるひとは誰ですか
 
みてください 2月の串間の空の眩しさ
もう春が近いことを教えていますよ
 

 

 
灯台を降りて資料室にも立ち寄った。
冒頭の写真のように、灯台守の存在を改めて知ることができた。
また、都井岬周辺がよい漁場であるということも書いてあった。
 
 
黒潮が北上し東へと向かう海の交差点を、灯台の光が見守っている。
わたしの小舟が心細い旅に出る。
海はあまりにも大きくて、方向を見失ってしまうこともあるが、灯台の光が導いてくれる。トビウオの大群が踊りながらどこかへ向かう。その姿はいかにも自由に思える。
ヒトの足音で集まってくる小さな池の鯉の大群とどっちが幸せだろうと思ったが、無駄な問いであろう。
 

灯台から下をのぞむ。

 

そのあとは、都井岬の中心的な施設「パカラパカ」まで徒歩で下る。舗装された山道を馬糞に気を付けながらテクテクと下り、約20分くらいで到着できた。

 

  

前回来たときよりも、たくさんの馬に出会うことができた。

大きな馬たちに囲まれ、仔馬もむじゃきな姿態で寝ていた。

 

 

馬の、こんなリラックスした姿をみたのは初めて。

ここは馬が住民であり、観光客はいわば、お客様であり、主従でいえば従なのである。

生まれてすぐに立ち上がり歩き出せるというあなたの美しい毛並みに包まれた肉体を、生理的早産と呼ばれ、ただ弱々しく時間をかけて育つヒトが、いまカメラに収めます・・・。

 

 
カシャ、カシャ・・・。
 
・・・無防備に寝そべる仔馬のお尻を撮影していたら、女性の大学生の集団から「写真を撮ってくれませんか?」と言われた。快諾し、上から、下から、仔馬を交えたり、遠景に樹々を入れたりしながら、その集団をいろいろな構図で撮った。
 
若い人は自分とは違って若いなぁと思うのだが、自分も若い時はあんなふうに若かったのだろうか?あんな時代などなかったように思った、馬糞を踏んだ。
しかし馬糞を踏んでも悪臭はなく、馬糞まみれになっても、もはや気にはならなかった。だって自分のなかには、みえない灯台守が住んでいるから。
 

喉が渇いたので、ふだんは飲まない糖分の多そうなジュースを自販機で買って飲んだ。
そしてまた「よかバス」で駅まで向かった。
 
緑濃い風景の小高い丘に風力発電の風車がみえた。

 

知り合いもほとんどいないこの街にいると、自分のなかにエネルギーが生み出されてゆくように感じた。

串間がますます好きになった、そんな小さな旅であった。

 

 

この旅はそんなふうに何事もなく終わったのだが、それからしばらく灯台守の存在が心にあった。

 

40Km以上先まで届く光を放つひと、わたしのなかにも住んでいる、灯台守のイメージ。

灯台守は誰だろう。

 

ずっと、この、自分のなかに強固に存在する、灯台守に対する懐かしいイメージは何だろうと思い続けてきたのだが・・・

 

 

ある日、東京の地下鉄で、それがわかったのだ。

 

 

・・・ これだったんだ。

 

四方八方から強烈な光を浴びせてくる不夜城の都会では、灯台のあかりに気づくことはない。だが、その輝きで迷った小舟を安全なほうへ導いてくれる、そんな光が都会にもあるのだということに、改めて気づくことができた。

 

駅がわたしの「のぼれる灯台」。

 

ぼんやりした頭で日比谷線を降りて、光の差すほうへ、そして地上へと階段を登り、なんとか仕事場に向かうことができた。

 

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◆松岡宮からのお知らせ

 

 

TikTokが・・・はかどっている・・・

 

TikTokをひっそりこっそりやっていましたが、とうとう視聴数1万を超える作品が出ました。

TikTokとしては多いほうでもないのかもしれませんが、作品が多くの方に届いてうれしいです。

 

 

 

●8月20日(日)16時~20時

 

今年はじめて、高円寺の「北中夜市」にてCD路上販売&即興歌作りをします。 

 

 

有名な「素人の乱 5号店」などがある、北中通り商店街です。 

うたでつながることができれば幸いです。

 

 

●クロコダイル「ウクレレエイド」

 9月4日(月)19時~22時のどこか 

 

原宿クロコダイル「ウクレレエイド」出演することになりました。

MusicCharge 500円+ワンオーダー。

 

TikTokでバズった戦争関連の唄をメドレーにしようかなと思っています。

お食事もできる、広くてよいお店ですので、お気軽にお立ち寄りくださいね。

 

 

●デザフェス58

11月12日(日)夕方ごろ 

 

 デザインフェスタ、この秋も室内パフォーマンスステージにて出演させていただきます。

3期連続になりますが、いつも多くの反響と売り上げがあり、ありがたいなと思います。

こちらもTikTok系のショートソングメドレーを入れてみようと思っています。

 

 

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https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1859970

 

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音源の売り上げで創作を続けることができ、いつも応援に感謝しております!

 

 

記事はこれで終わりです。以下は投げ銭です

  

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