松岡宮のブログ

詩でうた作り

クレヨンハウスで詩集を買った(みうらひろこ「渚の午後」)

青山通り「こどもの城」岡本太郎オブジェ)

 

今となっては信じがたいことだが、わたしは若いころ、乙女チック・ロマンチックなものが好きだった。

 

それはたとえば素材の良い服、レースの襟もと、生成りのバッグ、シンプルだけれどおしゃれな空間、ほんの少しのパステルカラー、べっちんのブラックリボンタイ、丁寧な文字を描けそうな高級文具、ローラアシュレイの枕カバー・・・うまく表現できないが、あの頃の空気もあり、そんな素敵なものたちが好きで、買ったりしていた。

 

思い出した、落合恵子さんのファンだったのだ。

もう前世紀のことなのだが、高校生の頃、文化放送「ちょっと待って、マンデー」という番組を聴いていた。おとなの女性による「おとなクラブ」という言葉にあこがれ、そんなクラブに入りたい、入れるような女性になりたいと思った。フェミニズム環境保護、家族問題、社会に目を向ける有能な大人の女性になりたかった。また、どこか可愛い部分のある大人の女性にもなりたかったし異性にもモテたかった。昔はレモンちゃんと呼ばれていたという落合恵子さんは、そんな幼いわたしのあこがれの代表だった。10代の頃、落合さんが経営なさっている絵本のお店「クレヨンハウス」に一度行きたいと思っていた。

 

ロマンチックなあこがれを失くしてしまったのはいつからなのだろう。いろいろな経験を重ね、信じているものに疑いを覚え、夢あこがれが縮小してゆくなか、クレヨンハウスのことを思い出さなくなった。

時間の流れの速さに驚く。今から10年くらい前、40歳ごろの自分に白髪が目立って来たころは今のようにグレイヘア全盛期ではなかったので、そういえば落合恵子さんも個性的な白髪だしいいんだ・・・と自分をなぐさめていた。

 

幼き日の夢は、楕円軌道を描いて、遠ざかり、またやってくる。

 

前置きが長くなったが、この記事のあらすじは・・・要するに、

 

「表参道のクレヨンハウスに2度も行ったよ!」

 

ということである。

 

 

本当にたまたまなのだがクレヨンハウスが表参道から吉祥寺に移転するとのことで、移転前に行けてよかった。

 

絵本のお店ときいて、なんとなくワンフロアの小さな書店をイメージしていたが、B1から3階まで、4フロアもある大きなビルだった。

 

公式ウェブサイトはこちら・・・。

 

www.crayonhouse.co.jp

 

絵本だけでなく、大人の書籍、オーガニック食品、木のおもちゃも売っている。設立は1976年と、歴史も長い。すごい。

 

最初に行った日は、雨の夜だった。別にクレヨンハウスに行こうと思って行ったのではなかった。

 

 

表参道そして裏原宿。音楽と美術と文化にあふれる、おしゃれな街。

わたしも好きな街だけど、なんか表向きのカッコよさが目立ち、落ち着かない気分になることもある、そうさわたしは大田区民、蒲田のように飾り気のない街がいいんだ!って自分に言い聞かせてきた・・・のに、やっぱり、こうして表参道を歩くと、あこがれが喚起され、気分が上がり、この街が好きなんだって気づかされる今日この頃・・・

 

裏通り、新しいショップ、逍遥する、ゆっくりと眺める、意外に細道、意外に迷う、そこに雨つぶ、傘がない。

 

雨宿りしようと思って入ったビルがたまたまクレヨンハウスだった。

 

 

・・・あー!これがクレヨンハウスかぁ!

 

わたしは感激して、1階の絵本売り場だけでなく、2階のおもちゃ売り場、3階の大人向け書店などでいろんな本を見たのだった。3階には大人の本のほか、手触りのよい肌着があったり、2階は木の楽器もあったり、素敵なものでいっぱいだった。

 

・・・素敵だな・・・。

 

そう思う自分がいた。

 

親友のRちゃんが好きそうな世界だなと思った。そういえば若い頃、Rちゃんとよく京王デパートのローラアシュレイに行ったものだ。さっそくRちゃんに「クレヨンハウスに行ったよ!」とメールしたら、Rちゃんも前に共通の友人と行ったことがあったそうだ。

 

しかし、そんなにフェミニストでも落合恵子ファンでもないRちゃんに、いきなり「クレヨンハウス行ったよハァハァ」とかメールして、迷惑だったかな・・・まっちゃんらしいと苦笑しているかも・・・。

 

夢・あこがれの火の玉が、この手に戻ってきて、うれしい、少しだけ、火傷(やけど)の、雨の夜でした。

 

 

そんなクレヨンハウスデビューから数日後の晴れた日、また行ってしまった。

 

表参道セントグレース大聖堂、やっぱり記念写真スポット。

仏教徒なのになぜ撮影する・・・。

 

 

ジャカルタに住んでいた頃、街にモスクの屋根がみえた。

まるい屋根はエキゾチックで美しい金色をしており、夏の日差しを跳ね返す輝きを放っていた。そのモスクはイスラム教徒のための建物で、もちろん結婚式用の建物ではなかったと思う。しかし表参道のこの教会は、少なくともわたしの祈りのためのものではないと思うと、キリスト教徒でもないのに教会をありがたがる心性について自己反省する、ヴィーナスフォートの偽物の空みたいな閉塞感、わたしはあんな空はいらないのだ・・・などと理屈っぽくなりながら記念撮影をした。そして、最近すこし気持ちが落ち込んでいたりしたので、もしかしたら教会に祈りをささげてもいいのではないかという気持ちになったりもした。

 

東京はたぶん寛大である、そんな気がする。

 

 

 

またまた来た、クレヨンハウス。じっくり店内を観察する。

 

今度は地下1階で、オーガニックのお菓子なども買った。

ちょっと高いなと思ったが、なんとなくこれを買うといいことがありそうだと思わせ、ついつい買ってしまう。商売が上手いのだ。

 

そしてエレベーターで昇った3階の書店で、強く思い立った。


「・・・詩集を買いたい。」

 

わたしはほんとうに詩が好きなのだ。

わたしは詩人である。詩人は詩とともにあり、詩そのものだ。自分も詩であるが人の詩も好きなのだ。読みたいのだ。だが、少し詩の世界に入りはじめると、むしろ他者の詩がいやおうなしに押し寄せてくるのだ。なぜかわたしレベルの人間でも、献本、宣伝、献本、宣伝、献本、宣伝、されすぎて、詩情の柿が、むぎゅっとつぶれる、僕のわたしの詩を読んでくださいとあらゆるメディアによる便りが届き、(詩は意外と重たくて大きなものなので)そんなふうに投げかけられたものたちを食べようと頑張るのだが消化不良を起こすこの肉体、詩が好きなのに、詩集という物体や詩集という言葉をみるのもしんどい時期もあった、が、やっぱりわたしは詩が好きで、トイレに持って行って「ワーズワース詩集」など朗読しながら用をたす・・・。

 

泉(対話)

 

二人は明けはなしの心で、

愛情のある真実な言葉で語った。

私は若く、マッシュ―は七十二歳だったが、

互いに親しい友であった。

 

空にひろがる樫の樹陰の、

苔むすほとりに二人が坐った。

芝生からは泉が湧き出て、

二人の足許で音を立てた。

 

田部重治選訳「ワーズワース詩集」岩波文庫

 

 

・・・詩ってほんとに便秘薬だな、ほどほどに詩を取り入れて、精神をすっきりさせることができる。


「詩集を買いたい。」

そのときなぜそんなふうに思ったのかわからない。クレヨンハウスは商売がうまいのだろうか、あこがれを感性的に揺さぶって、詩を読ませる気分にさせるのがうまいのか、商業的なたくみさを思わないわけでもなかったが、自分が詩を読みたかったんだということを思い出し、クレヨンハウスの3階の素敵な空間のなかで詩集を買った。

 

 

買ったのは、みうらひろこ「渚の午後 ふくしま浜通りから」。

 

原発事故で住まいを移らざるを得なかった詩人の、孫と暮らす生活に根差した詩たち。

3.11の詩集はいくつかあると思うが、生活と風景がみえるこの詩集は、さりげない描写のなかに胸にせまりくる詩が多かった。

 

たとえば「蛇行する明日」という詩。

 

いま 生い茂った夏の叢に

流れるように身を隠して行ったのは

君だったのか、青大将よ

 

君はたったいま

小さな幻の川を残して行ってしまったんだね

もう以前のように

君を疎んじたりしないよ

 

(「蛇行する明日」より)

 

「もう蛇を疎んじたりしない」

人間の生活が災害などによって破綻をきたしたとき、自然や生き物に対する見方がかわることがある、そんなことを思った。

 

この詩集ではほかにも、たとえばセイタカアワダチソウ、牛、郵便ポストなどが、残された町ではびこり、いたましい営みを続けているということに気づかされた。

 

同時に、原発により県内トップになった自治体で、原発関連企業に勤めているということがいかに誇りであったかということも書かれていた、「東京へ電気を送る送電線の鉄塔」という言葉とともに。

 

常磐線の部分再開を描いた「霧の踏み切り」という詩でこの詩集は終わっていた。

それでもつながり始める鉄道に希望を託しながら、詩集は終わる。

警報機の鳴る踏切は、電車が走ることを示す踏切、仕事する踏切。

それはこの世界が生きて動いている証。

自分も、2019年秋と2022年5月に富岡~浪江に行ったので、情景が思い浮かぶところがあった。

 

自分の記録はこちら(↓)

ekiin.hatenablog.com

 

やっぱり、詩は、よきものだ。

詩に助けられてきた自分は、恩返しだと思い、詩を読んで、買おうと思う。自分が好きな詩を、自分で選びながら。

ポエムたちに、ありがとうを、伝えながら。

 

 

以上のように、表参道クレヨンハウスに2回行って、喜びの多かった秋であった。

 

 

 

上の絵は「ピアノの森」の模写なのですが・・下手ですなあ・・・。

 

 

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●ディスクユニオンでCD「Ltd Exp 383」販売中です。ありがとうございます。

紹介ぶりが面白いので、ぜひみてみてください。

 

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2022年11月13日(日)12時~20時 

池上でパーティー

 

NO WAY MANIACSをやってる森さんのNO WAY MAGAZINE20号リリース記念パーティー?なのかな?

自分でプリントできたり楽しい経験できそうな日。

 

松岡は・・・

道ばたであなたの言葉で唄を作ります(投げ銭/CD購入者は無料)

 

東急池上線池上駅から歩いて5分程度のChannnel for Rent店頭にてやります。

池上駅から池上通りを大森に向かって徒歩5分くらいの蕎麦屋の近くかな(てきとうな説明。)

 

うまい曲は作れないですけど、敷居のひくい楽しい歌作りが体験できると思います★

 

 

11月19日(土)デザインフェスタ56 屋内ライブ出演 

ビックサイト南ホール4階

 

大きな「ショーステージ」ではなく小さめの「パフォーマンスエリア」です。

南館4階。

土曜日、16時50分ごろより、CD「Ltd Exp 383」から4曲リアレンジライブ&CD販売します。大丈夫かしら・・・??

 

11月20日(日)文学フリマ 12時~17時 流通センター

 

事務所名義で仲間のみなさんの販売しますが・・・アリさんのタグ無料配布が目玉商品か?大丈夫かしら・・・その2。

 

c.bunfree.net

 

高円寺の路上でほめられた「ありさんタグ」。

わたしは疲れてブースで寝ていると思います・・・。

 

 

なお、全商品、みやさんBASEでも購入できます。

 

383.thebase.in

 

芸術の秋、たくさん食べてたくさん電車に乗りたいと思います。