品川埠頭の風のなか

それは真冬のとある土曜日、品川駅からテクテク歩いて海を見に行った。キラキラなカフェに行きたかった。

 

(GoogleMapより)

この地図で見ると、左側の品川駅から東に向かって10分程度歩くと品川埠頭にたどり着けるように思われた。海のそばに「品川台場食堂」という文字も見える、あら、食堂、すてき、高層ビルの上階にある、ガラス張りのキラキラカフェかしら?などと思って、てくてく歩いて行ってみたのだ・・・

 

しかし、結論からいえば品川埠頭はキラキラした場所ではなく、ヒュルルと風が吹くさみしいところだった。

 

 

品川駅の東口で空を見上げると、美容クリニックの看板が立ち並ぶ。クマ取りのニーズが高いなんて知らなかった。白い雲はいつでも美しいのに、ひとは見た目で判断する。わたしだってキラキラが好き、三叉路で選ぶは光の道。

 

 

わたしが進む道はこちら。てくてく、冬の枯れ葉が色づく並木道を歩く。ビルの側面に青空が映る。東京の冬はよく晴れている。

 

 

スマホでマップを見ながら海に向かって歩いてゆくが、意外に距離があり足に合わないブーツがきしむ。交差点の信号待ち、通行人もほとんどいなかったが、不動産の会社員なのか男女ペアが立っており、くたびれたわたしにマンションのチラシを配ってくれた、あ、ありがとうございます、でも10000万円超えのそのお部屋、買えそうにない、ぴいぴいですから、と、鳥の声。

 

どうしてそんな誤解をしていたのか。

品川の埠頭のほうは「富裕層が住むキラキラした地区で、タワマンがバンバン立っているのかな?」などと思っていたがそんなことはなかった。無口に青空をはね返すビルはたくさん建っていたが住民は多くなさそうで、海に近づくにつれて引き潮みたいに通行人が減ってゆく、「この先には集客しているものは何もありません」とでも言っているように感じられる埠頭の向かい風、ベビーカーを押す大柄な男性とすれちがったのが、最後に出会った人影であった。

てくてく、てくてく、足が痛い。

 

やがて運河を渡る橋にさしかかった。港南大橋というらしい。遠くにキラキラしたお台場がみえる。真昼のブリッジがうつくしい。

下をくぐり抜けていった小型のボートには縦に寝そべってるカップルがおり、橋の上から見下ろすわたしと目があうと笑顔で手を振るのがみえた、ものずきなのか、お仕事か、手を振り返す。

 

この坂を下りれば埠頭があるようだが、このまま進んだらもう徒歩では戻れない気がした。まあいいか。どこかで『もう戻れない』道を選んでしまうことがある。遠くにみえるフジテレビの銀球がこちらに飛んできて坂を転がってゆく。SF漫画のようにひとけのない無人の都市で、誰か、誰かいますか?

 

 

おーい、誰かいますか?(はーい ただいま)

空耳のように北風が吹く

誰かがどこかで働いている(それはみえない)

ノックするための扉がない建物たちに囲まれ

さようなら世界、さようなら、最後の一葉がいま舞い落ちた

 

 

そしてやっと品川埠頭にたどり着いた。

広大な空に銀色の雲が分厚く出迎えてくれた。

 

 

長い影、地面には労働のなごりが残る。そしてやっと、ここは物品を運搬するなどの労働の場所であることがわかった。キラキラした観光地ではないのだ。そして今日は土曜日、お休みなのだろう。そして『品川台場食堂』もキラキラしたものではなかったし休みだった。手前のベンチで横になっている高齢者がいたが仕事中の休憩だったのかもしれない。お疲れさまです。

 

 

東京出入国管理局(品川庁舎)があった。海に向かってそびえ立つ立派な建物。

 

 

足はすっかり痛くなり、打ちつける風に髪は乱れ、ひどい外見になっている。遠くの灯りを眺めながら、もう戻れないような気分になる。こちらの世界でひとりぼっちになってしまったかのような休日の品川埠頭。だけどどこか郷愁を感じさせ、これはきっと子どもの頃の、さほど遠くには行っていないのに遠くに来てしまったような不安の再現だったのだ。

また来ます、元の世界に戻る扉はこれだけだね、帰りはバスで品川駅に戻った。

 

水素バスは少しずつ人を乗せ、程なく美しい品川駅へとたどり着いた。

 

(おわり)

 

 

埠頭といえば、松任谷由実「埠頭を渡る風」はとても好きな歌です。

 

 

 

前奏だけでも「埠頭の風」が感じられるアレンジ、聴くたびに歌の世界に惹きこまれます。

 

>埠頭を渡る風を見たのは

>いつかふたりがただの友達だった日ね

>今のあなたはひとり傷つき

>忘れた景色 探しにここへ来たの

(松任谷由実「埠頭を渡る風」)

 

ユーミンの歌には優しい母性があるなぁと思うのですが、荒涼とした心象風景のなかではそんな毛布のような言葉の暖かみがしみる・・・ユーミンのなかで一番好きな歌で、中学の頃はヘビリピしていました(ずいぶん昔だ)。

 

キラキラした場所からは元気やエネルギーを貰えるけれど、荒涼とした場所では自分のなかにある何かが目覚めるのかもしれません。誰もいない埠頭はひとを詩人にしてくれます。

 

松岡宮の作品も、どうぞよろしくお願いします。

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