ごうん ごうん
乗客のいない列車が多摩川を駆け抜けて行く
その轟音はいつもよりも軽かったかもしれない
調子よく走るその列車の車体のことを
擬人化した日々もあった
この車体は歌舞伎役者みたいだし
この車体はおじいさんみたい
あなたは夕映えに輝く銀の車体
その堂々たる体躯と 無口で華麗な働きぶりに 子供も大人もあこがれ
フィクションの世界では銀河を駆けた
人間が生み出したその列車は 人間よりも大きいけれど
人間が制御できる いわば人間の手の中にあるものだった
だから擬人化して遊んだものだった
だけどあなたは人ではなかった
だけどあなたは人ではなかった
鉄道の列車は 列車であって 人ではなかった
ごうん ごうん
乗客のいない新幹線が多摩川を駆け抜けて行く
運転士の青白いマスクが日差しを吸い込む
乗客がいないぶん軽くて 車内の空気もきれいだろう
県境でも減速せずに光のさざなみを蹴り上げながら西へと駆け抜けてゆくのは
我が国が誇る 新幹線
その車体はいつもよりもさらに軽やかに踊っていただろう
いつか手のひらに乗せたような気がした愛する列車たち
だけどあなたは人ではなかった
ひとが感染症におびえて暮らすのを
列車のあなたは静かにみていた
ごめんなさい 僕たちには ウィルス 関係なくて
でも 綺麗にしてくださって ありがとうございます
綺麗に掃除されて ちょっと くすぐったいです・・・うれしいです・・・
・・・・丁寧にアルコール消毒をされながら 列車はそんなことを 思っているのかしら・・・
・・・いいや 列車は 人ではなかった・・・
制服を着た駅員って人じゃないみたいね
その肩口から腰にかけては いつも冷静で 美しく
その肩口から手首にかけては まるで機械のように 正確だ
だから 人ではないみたいだ
と・・・
そんなことを思っていたこともありました
だけど駅員はどうしようもなく人であって
ナイフを刺せば血が流れ
喉の刺激で咳をする
ウィルスに晒されては感染する
わたしと同じく 人だったのです おどろくべきことに
駅員たちは 人だったのです おどろくべきことに
それはウィルスに感染する生身の肉体である
列車が人ではないのと同じ強さで
駅員は じつは 人だったのです
人はせつないですね 肺をもち呼吸しなくてはならない
人はせつないですね ウィルスに感染して具合が悪くなる
・・・波が来るよ 聞こえるよ
ああ、何か、身の危険を教えるシグナルが、来るよ・・・
・・・駅の人波のなかで自らの身をどうにか守ろうとするひとりの人である 駅員・・・
溺れないで どうか 桜の海に どうか
2020年3月26日
夕べ小池知事が会見で話していたように
コロナウィルス感染者が47名に増加して
この週末は不要不急の外出は控えなさいとのこと
こんな非常事態は初めてだ
震災や台風、大雪などはあったけれど感染症の非常事態はそのどれとも違う
どこかの地域の苦境ではなく世界全体のことではあるが
ライフラインは無事だし
食糧も水も電気もある
生活はそれなりに営めそうで
ウィルスという見えないものへの不安のなか
ウィルスに感染しない列車たちは快調にぶんぶん走っているし
ウィルスに感染しない桜たちは
観る人がいようといまいと満開の花びらを
風に 振り回している
ウィルスの恐怖や被害は
人や生き物だけを狙い撃ちしてやってくるものなのだなと 実感する
STAY HOME!の号令のなか
3分に一度 多摩川を駆け抜けてゆくのは
我が国が誇る新幹線
自慢の白いボディもぴかぴかな
からっぽの超特急
そのなかに
・・・ウィルスはどこかにいないか西に向かってゆかないか
・・・ウィルスはどこかにいないか西に向かってゆかないか
もう そんな目でしか 見れなくなっている自分がいる
人間の生活の連鎖のなかで猫もこどもも生きてきた そんな小さなものたちが
どうか 飢えませんように
小さな短冊に願うのは・・・
ただ そんなことしか 浮かばなかった
写真は大田区の桜坂です。
そう、福山ましゃの歌にある・・・満開ですが、人、いなかったですね。
しばらく家と事務所の往復です。
もともと在宅ワークが多いので あまり変化はないですが・・・
4月からは例によってアルバイトとか フリマとか 控えているのですが どうなることやらです。
松岡宮の音源 好評発売中です。ぜひ 聴いてくださいね。
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