駅員観察日記(はてな編)

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脱 出 大 作 戦

小柄で非力な人間による何の役にも立たない脱出記である
 
その数日後
わたしはそのことを大学の警備員に伝え
ほら ここのライオンズマンション と 
連れて来たらしい

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東大理Ⅲに受かったばかりの男性に襲われた部屋は
ライオンズマンション本郷の中層階
ユニットバストイレつきのワンルーム
 
狭い玄関 狭い廊下 左手にユニットバス 
そして狭い部屋に敷きっぱなしの布団 
 
 
布団の周囲にはビールの空き缶と西田ひかるの水着姿が表紙の雑誌
 
西は・・・どっちだ・・・
 
右奥に電話機やら書類やらたくさん乗せられた机
「雑」という文字がふわふわ空中に浮かんでいるような
そう天井までも足の踏み場もなさげな空間で
いきなり襲ってきたのだった
酔っぱらってぐにゃぐにゃしている
それは
 

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僕の部屋で飲みなおさない?というのはそういうことだったのか・・・

知らなかった・・・・
 
落ち着かせなくては・・・
 
とにかく酒に酔って力づくで襲おうとしているこの男性を落ち着かせなくてはと思った
わたしは奥の机の上にある電話のほうに向かった
(西は・・・こっちか・・・)
 
<なくしものをしたから警備室に電話をしなきゃいけないんだ 警備員さんと友人なんだ>
と言って
受話器を持ったら落ち着いてくれるかもしれないと思ったが
 
その眼鏡が炎を燃やしてずっと待ち構えているのだった
 
ただ王手をかけられて待っているような状態になるだけだった
 
 

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・・・しまった ここは 地勢的に不利だ
 
電話のある机は窓際の隅にあるからそこに追い詰められたら逃げ場がないのだった
 
この猛獣を落ち着かせなくては・・・
 
・・・それは わたしには冷や汗の出来事だけど きっとよくあることのように思われた・・・
そこで電話を支配したにしても
警察に言うとか そんな類のことだとは思わなかった・・・
この 酔っぱらってどうなっちゃったんだろうという状態の相手を冷静にさせなければならないと思った
 
<好きな子に認められたくて勉強して理Ⅲにやっと受かったのに>
ふらふらしながら呟くそのぐにゃぐにゃを・・・
 

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しかし冷静になっていただくことは無理そうだ

 
脱出するしかないのだ
 
中層階なので窓からは無理だ
 
いまの形勢では自分が部屋の奥側におり相手がドア付近を支配しているので
なんとかこの形勢を逆転させたい
ドアへのアクセスを確保しなくてはならない
 
西ではなかったのだ
この空間で相手の東側に立つ必要があったのだ
 
足の踏み場もない部屋でどうにか形勢を変えることを考えた
布団の上でのかけひきをもって移動する必要があった
こちらに寄って来た瞬間に交わして体勢を逆転させればよいのか
それしかないか
しかし
布団の上で倒されたら終わりだ
 
すべての鞄を握りしめて考えていた
 
こんなとき空を飛べたらよかったな・・・
 
・・・酒臭い!
相手が無理やりだきついてきた
 
やめやめやめ
はい
やめやめやめ
 
無我夢中でふりきっても
腕力ではかなわず わたしの身体を絞るかのように三本の腕は巻き付いてくる
 
こんなとき脱皮ができたらよかったな
蛇はつよいよね
 

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やめ やめ やめ
 
やめ やめ やめ
 
・・・やがて 何分たったかわからないが
もみ合っているときに何かの拍子に自分のほうがドアに近くなった
やったぞ 今だ と 思って 
はだしでドアをあけて
身体にまとわりつく蛇とともにマンションの廊下に転がり出ることができた
 
やった 脱出できたぞ!
帰るぞ!
裸足で!
 
と思ったが
相手がやっとあきらめたようにわたしの靴をポンと投げてよこした
そしてまたわたしの首にぐるぐるまきついてきた
駅まで送るよと言いながらその蛇は春日通りを下って京成上野駅までずっと裸足のまま首に巻き付いていた
 
坂は下るもの 
道は東へ続くもの
 
京成の駅員が美しくみえた

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小柄で非力な人間による何の役にも立たない脱出記であった。