駅員観察日記(はてな編)

◆ポエトリーアーティスト松岡宮が描く東京の風景たち◆このブログはアクセスカウント以外のアクセス解析をいたしません◆

車掌の風は6センチ

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その各駅停車が緩やかに停車し

自由が丘で急行の待ち合わせをするとき

ビロードのような低い声が響いたのだった

 

「・・・雨のため 車掌が 各車両の窓をチェックしにまいります・・・・」

 

えっ

車掌が

各車両にやってくるの!!

 

車掌が各車両内を歩き回るなんて

そのサービスは

小田急線を思い出させたが

東急ではなかなか経験したことがないサービスだ

 

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長梅雨の東京 自由が丘駅

ドサドサと速足の車掌が連結部分から現れた

もみあげに白髪がのぞく 若くはない車掌 

東急マークのシャツを着た小柄で細い車掌 

大きな東急の制帽をかぶっていたが

制帽にはビニールがかぶせられており

しずくがキラキラ光っていた

そしてドサドサと足音 

駅からは

まもなく急行電車がまいります・・・のアナウンス

ドサドサ ドサドサ・・・

・・・小田急車掌がまるで猫のように足音をたてず歩くのとは異なって

非常事態を物語るみたいに東急車掌の靴音は

ドサドサ ドサドサ にんげんみたいですよ・・・

・・・こんな短い急行待ち合わせ時に各車両の窓をチェックするなど 教科書にない事態だろう

車掌は窓を微妙なサイズにあけなおしていた

親指くらいか

6センチほどか

わたしは 雨だから窓を閉めにきたのかと思ったけれど

そうではなかったようだ

帽子にかぶせたビニールをきらきら光らせた車掌は

雨なら雨なりに ちょうどよい大きさに窓をあけ

ちょうどよい換気をしようとしていたのだ

 

<すべての乗客を感染から守りたい それができるのは車掌しかいない>

 

6センチほどの風を吹かせようとしていたのだ

 

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自由が丘駅を急行電車が発車したあと

ピンポンピンポンと閉まる各駅停車のドア

ゆったり発車すれば車内にはほのかな風が吹く

車掌の風は6センチ

<誰一人感染させたくない>という車掌の思いが込められた雨風

やがて放送が入った

「車内換気のため 窓を開けさせていただきました 雨が吹き込むようなら 調節をお願いいたします」

ビロードのような低い声がここちよく風に運ばれてゆく

もう誰もわからない

東京の感染者が増大していることが明らかだけど

仕事たちは動き出しておりひとりひとりは小さく身を守ることしかできない

子供たちがいちばん我慢している

大人も高齢者も・・・車掌も!我慢をしている

そして わたしだってわからない

満員電車が感染の温床ならば わたしだって もう 感染している・・・

元気だけど・・・

マスクのまま じっと黙って 本など読んでいる

ウィルス 

やさしさ

おもいやり

 

みえないものをみようとしている

 

 

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東京は窓を開ける

危険と呼ばれてもうどこにも逃げ場も行き場のない東京で

誰もが不安を抱えながら

しかも梅雨はあけないので湿っぽい

もうねえ、ハグしてお祭りしてメメントモリして煮えたぎるのもひとつの生き方・・・

火事だ火事だと騒ぎまくる

東京にはそんな面もあるけれど

だけどわたしの目にみえる東京はそんなに盛(さか)っているわけじゃなかった

車掌が窓をあけて風を入れる風景であり

人々は全員マスクをして気を遣う風景

子供もマスクしてちょっぴり我慢をする東京

それでも学ぼうとしたり仕事を成し遂げようとしたり

あるいは経済をまわそうと誰かを応援しようとしたり・・・

雨に濡れながら悩みつつ控えめに暮らす姿なのだった

東京で小さくなって生きてゆくのだ。

 

ああ、いい風だ。

この風は車掌が吹かせた風なのだ、ね。

 

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たまにはスーツも着ないとね★

 

スーツの寄贈Kさん 猫のおもちゃの寄贈Aさん

ありがとうございました。