駅員観察日記(はてな編)

◆ポエトリーアーティスト松岡宮の日々の記録◆2018/10/8(月祝)神楽音にて主催イベント!◆このブログはアクセスカウント以外のアクセス解析をいたしません◆

哀愁のマスターコントローラー

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写真と本文は関係ありません。また本文はフィクションです。

 

 

 

 

はじめて握ったマスターコントローラー・・・

それは 思いのほか 冷たく 硬かった

 

鉄道の展示場で 声をかけられて 振り向けば

それはやや小柄な運転士

紺色の制服をゆるめに着こなした運転士がわたしに微笑みかける

「実際の運転訓練で使われているトレインシミュレータ

やってみませんか?」

と 笑顔を見せてくれた・・・

糸のように細い一重まぶたの目はガラスのように透き通り

いったいどこからやってきたのか分からない

天使みたいな運転士が 

白い手袋でおだやかにわたしを誘うので・・・

 

やってみようと 思ったのだ

 

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「そのシミュレーターは実際に使った運転席なんですよ

速度計も シートも 本物の運転席と同じです」

 

にこやかにほほ笑む運転士

その腕が少し伸びて

ああ 運転士の体は伸びるんだなぁと思いつつ見つめていたら・・・

その冷たい身体が

わたしに命令をした

 

「握ってください」

 

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はじめて握るマスコンは・・

それは 思いのほか 冷たく 硬かった

 自分の短い指には 太くて 大きかった

そして裏側のブレーキ

左右の手のどちらかで必ず握っていなくてはならないという

もしも両手を緩めれば非常ブレーキがかかってしまう

という 恐ろしいマスコンの裏側

 

30分間停車しない電車の運転士の指先は必ず握ったままなのだ

 

運転士の指は自由に空を泳いだりはしないのだ

 

すべての握力が奪われてゆきそうな 

その システム

止まる 停まる 電車はいずれにしても止まるように出来ている・・・

右足でフォン・・・警笛をフォン。

風は草をブレーキ方向になぎ倒してゆく

電車のスイッチはすべて止まる方向に向かって進んでゆく

 

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「ちーがーうーだーろー!!」

 

突然、その運転士がわたしに怒鳴った。

先ほど、小柄だと思った運転士の体が、薄く、長身に、なっている。

体積保存の法則だ。

「あなたはブレーキをかけすぎです!」

そう怒鳴るや否や 運転士の冷たい手がこちらに伸びて

わたしの代わりにマスコンを動かそうとした

「ほら、2メートルも手前に止まってしまった。だからダメなんですよ!

運転士はどうやらブレーキのかけ方にこだわりがあるようであった。

トジメのランプが点灯。

マスコンをいちばん手前に引いてください」

運転士の声が冷たく響いた

 

一重の細い目がこちらをみていた。

そして運転士の薄い身体のあちこちからマスコンがどんどん生えてきた。

 

わたしがマスコンを前後させると 運転士のマスコンも一緒に動いていた。

 

「ちーがーうーだーろー!!75キロ制限だ!」

 

また 怒鳴る運転士。

運転士の怒鳴り声が恐ろしいので

マスコンを彼に預けたくなるのだが

両手を離すと非常ブレーキがかかってしまうので

わたしは運転士のマスコンを握り続けていなくてはならない

運転士のマスコンは冷たくて硬く

けっして楽しそうなものではないのだが

目の前に新しい風景が繰り広げられてゆくなかで

まだ それを離してはいけないのだ

 

目の前の風景が停車駅になり 我々はホームに滑りこんだ

「まだですよ」

運転士は慎重に声をかけた

「まだだ」

そして運転士の指がこちらに伸びてきた

「いまだ、ハァッ!」

いっしゅん 強いブレーキ。

そのあとすぐに くっくっくっ・・・と少しずつ弱いブレーキへと切り替えてゆく、わたしの手と重なる運転士の手袋・・・・。

「はいっ、0mです!」

ちゃんと停車した わたしたちの電車。

 

ハァハァハァ・・・。

 

・・・いやだわ、興奮しているの、運転士、あなたが?

 

冷静に見えた運転士が こんなに喜ぶなんて 意外です

そして運転士は さっきよりは また 小柄に戻ったような気もする

あなたは本当は誰なのですか?

訓練ソフトの中にだけ住んでいる天使みたいな運転士?

 

でも これ トレインシミュレーターですよね

わたしが小金を払ったのに

運転士、あなたが興奮しているのね。

 

よくよく見たら 

「叱られたいアナタに・・・運転士の叱責つき!! トレインシミュレーター」

と 書いてありました。

 

また行こうかな。

 

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